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情報を処理する脳の性質

『多くの人は、見たいと欲する現実しか見ていない』


古代ローマ時代の政治家であるユリウス・カエサルの名言である。


『ほとんどの人間は都合よく現実を解釈していて、信じたいもの(そうであってほしいと願うもの)しか見ない』という意味である。


信じたいという気持ちが先にあるため、物事をありのままに観察することができず、多くの偏見を生み出し、正しい意思決定や行動につなげることができなくなる。「あの人はこういう人だから、先日のあの行動にはこのような悪意があったにちがいない」という特定の個人へのレッテル貼りもその典型例である。


歴史に目を転じても、同様のことがあることに気づく。


第二次世界大戦のときの旧日本軍の「敵は惰弱で忍耐強くないから、攻撃一辺倒で押せば恐れをなして逃げ出す」や戦後日本の「軍事力を持たなければ戦争とは無縁でいられて平和が保てる(その証拠に、戦後は一度も戦争に巻き込まれなかったではないか)」のような主張もその典型例である。過去の時点で真であった(かもしれない)ことが、未来のどの時点でも真である保証など、一体どこにあるだろうか。


企業経営でも同様のことがある。

過去の強烈な成功体験や経営理論・経営フレームワークと呼ばれる経営分析用の色眼鏡をひとたび持ってしまうと、ありのままに現実を捉えることができなくなる。重要であると言われている要素にしか注意が向かなくなり、それ以外の要素は重要ではないと考えて、無視するようになる。


「これに照らし合わせて考えると、現実はこのようになっていなければならない(なっているはずだ)」という一方的な思い込みを誘発して、”今このときこの場所”の適切な判断ができなくなることがある。過去の案件で重要な成功条件であったことが、未来の案件でも同様に重要な成功条件である保証など、一体どこにあるのだろうか。


このような脳の性質を”確証バイアス”と呼ぶ。


古代イスラエルの王であったダビデは、王のあるべき姿からダビデの行いを度々厳しく批判していた預言者ナタンに対して、後にイスラエルの最盛期を築くソロモン王となる自身の子供を託した。


普段から良く仕えている多くの取り巻きたちを差し置いて、自分に最も厳しい態度であった人物に対して自分の最も大切なもの、自分の子供の未来を託したのである。ダビデ王は、自分とは異なる視点で率直に意見してくれる人物が如何に貴重で得難い存在であるかを理解しており、確証バイアスを避ける術を知っていた。


確証バイアス以外にも脳には様々な思考の癖があることが知られている。


現状維持バイアスは、変化への不安が先行してしまい、現状を維持し続けようとする思考の癖のことである。現状を維持すること(変化を拒否すること)で事態が安定化し、自分自身や周辺を含めて良い方向へ向かうのであれば問題ない。


しかし、環境が急速に変化していて、同じ場所に留まっても生き延びられないであろう場合は、変化を伴う行動を起こさなければならない。現状維持バイアスの背後には、「変化を拒否しても問題なくやっていける」と思い込みたい気持ちが先にある。


損失回避バイアスは、利得よりも損失に敏感に反応する思考の癖のことである。

「これを行えばこれだけの利益が得られます」という話よりも、「これを行わないとこれだけの損失を被ります(あるいは、今これだけ損しています)」という話に反応しやすいという傾向のことである。損得勘定以外の価値観が基軸となっている人には全く当てはまらないが、多くの人に当てはまる傾向になっている。


リフレーミング効果は、選択肢の見せ方によって選ぶ内容が変わる現象のことである。

対象の影の部分には一切触れずに光の部分にだけフォーカスする、もしくはその逆、あるいは一般的にまだ知られていない面にフォーカスする、などのように見せ方を変えることで、相手の選択結果が変わる。「値段相応の品質」を「リーズナブルな価格」と表現したり、「御用聞き」を「お客様に寄り添った提案」と表現したりするのがそれに該当する。


脳の性質の中で最も奇妙であると思われるのが「後から理由付けする」ことである。


人間は様々な角度から合理的に考えた結果、特定の選択肢を選択するのではない。個別の選択肢に対する快・不快の感情がまず先に存在し、自身の選択を正当化するために後から理由付けを行う、ということがわかっている。


検証のための実験では、過去に自分が選んでいない選択肢を「過去に選んだ選択肢」として相手に見せて理由を尋ねると、相手は何事もなかったかのように「なぜその選択肢を選んだのか」について滔々と語るそうである。人間の意思決定の全てがこの論理に沿うわけではないが、そのような傾向があるということが実験によって確認されている。


また、バイアスに対するアンチテーゼになりますが、「バイアスがかかっていると(科学者や観察者が勝手に)思い込むバイアスがある」ということも知られている。対象の人物に思考バイアスがかかっていると思い込んでいたが、実際に言動を観察してみるとそうではなかった、ということが実際にはある。


したがって、デジタル技術を前提とした事業戦略をつくる際には、特定の個人にフォーカスした上で「戦略上意図した行動をとってもらえるか」や「データを正しく解釈してもらえるか」を個別に考える必要があります。”事業戦略をつくる”ということは、裏を返せば”その事業に関わる人たちの心理やその動きを見極める”ということである。

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