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軍事戦略から経営戦略へのつながり

戦争論では、現実にはありえない「絶対戦争」の概念を最初に定義して、そこから現実の戦争の様々な制約・不確かさを割り引くことで、現実の戦争の本質に迫りました。


経済学でも同じアプローチが採用されていて、産業構造の違いがどのように企業の利益に影響を与えるのかが研究されてきました。経済学では、実際にはありえない「完全競争」の概念が提唱され、以下の条件が満たされているかぎり市場は完全競争となり、各企業は超過利潤を上げることができない(厳密には正しくないですが、簡単に言うと“運営上必要最低限の儲けしか出ない“)状態となります。


・買い手と売り手が無数に存在して、各人は価格を勝手に決めることができない

・買い手と売り手は、市場に参入するのも退出するのも自由であり、コストがかからない

・市場で売買される財(物品やサービス)は同質であり、差は存在しない

・財をつくるための経営資源(技術や人材等)は、他の会社にコストなく移動できる

・市場で売買される財に関する情報は、全ての市場参加者が等しく知っている


「完全競争」の重要なポイントは、特定の市場が上記の完全競争の条件から離れれば離れるほど(独占状態に近くなればなるほど)利益が出る状態となり、完全競争に近くなるほど利益が出ない状態になる、ということです。


経済学の「完全競争」の概念を経営学に応用したのが、M.E.ポーター教授の著名なSCPStructure-Conduct-Performance)理論であり、SCP理論をベースとした「競争戦略論」です。競争戦略論では、他社が真似できない差別化を行って完全競争から離れること、規模の経済による低コスト構造の実現によって市場に参加できるプレイヤーを少なくして完全競争から離れることが議論されており、「市場における自社の戦略的なポジショニングを決めることが戦略そのものであり、それが利益の大きさに直結する」ということが述べられています。


MBA(経営学修士)の教科書でよく扱われる、以下の分析軸を持つ5フォース分析は、業界の構造から来る競争の激しさ(儲かりやすさ・儲かりにくさ)を説明するためのツールとして位置づけられ、利用されています。


・潜在的な新規参入企業の多さ

・競合関係の激しさ

・顧客の交渉力

・サプライヤー(供給業者)の交渉力

・代替製品・サービスの存在の豊富さ


ここで考えていただきたいのは、「戦略ポジショニングをとる」と言っても現実に実行することは言葉ほど簡単ではなく、極めて難しいことであるということです。ポジショニングをとるためには、低コスト構造を実現するか、顧客にとって意味のある製品やサービスの差別化を実現する必要があり、それらを行うためには独自の経営資源が必要になります。独自の経営資源があれば競争上有利に働くことになる現象を、経営学ではRBVResource Based View)理論と呼びます。


しかし、独自の経営資源を持っていればそれで事足りるのかというとそうではなく、環境の変化を検知して反応し、ダイナミックに経営資源を組み合わせることで臨機応変に対応できる能力が実際には必要となります。経営学では、そのことをダイナミック・ケイパビリティ理論と呼びます。


今現在の戦略ポジショニングから別のポジショニングの地点へ移動するためには、今ある経営資源だけでは実現できないことが多く、手元にはない経営資源を外部から調達するか、既存のものを組み合わせて新しい経営資源を生み出す必要があります。現状の(世の中にある)経営資源の延長線上にはない非連続な変化を起こす経営資源が生まれることをイノベーションと呼びます。そのような資源を生み出すのは、“プロジェクト”や“プログラム”と呼ばれる一時的かつ独自性の強い仕事の役割になります。


非連続な変化とは、既存のx軸・y軸があり、x軸やy軸において大きな変化を遂げることだけでなく、今までは存在しなかった“顧客にとって価値がある”未発見のz軸を見つけて、そのz軸での進化向上を追求することが非連続な変化であると言えます。定量的に表せる軸もあれば、定量的には表せない軸(デザインのような感性的なもの)も存在します。


企業では、物流や経理等の定常的な繰り返し業務である“オペレーション”や、非定常的な(一時的かつ独自性の強い)業務である“プロジェクト”や“プログラム”を行って、日々生まれる新たな知見や教訓を組織に蓄積し活用することで、戦略ポジショニングをより強固になるように磨き上げていきます。


ポーター教授のポジショニングによる戦略論とは異なる立場を取るのが、ポーター教授と比肩する経営学者のミンツバーグ教授です。


「ポーターはトヨタには戦略がないと言っているが、トヨタは数十年以上に渡って自動車産業の世界市場で競争優位を保持してきた会社であり、ポーターはトヨタから戦略の何たるかを学んだほうがよい」「戦略づくりは陶芸作品づくりと共通している部分があり、一定の理論や方法論、コンサルタントが推奨するツールを使って進めれば優れた作品が出来上がるという類のものではない。厳然として過去につくってきた作品の影響があり、目の前の粘土と格闘して試行錯誤を続け、未来の新しい方向性を模索していくものである」というようにマネジメントに対する科学偏重・計画偏重の価値観を批判し、「戦略クラフティング」と呼ばれる“ものづくり”的な戦略形成プロセスを推奨しています。


余談になりますが、ミンツバーグ教授は「MBA(経営学修士)の学生が尊敬する起業家や大きな成功を収めた起業家の中にMBA出身者はほぼいない。MBAはマーケティング・リサーチや財務に詳しいビジネス官僚を養成している」のようにMBA教育についても言及し、既存のMBA教育には抜本的な改革が必要である旨を述べています。


近年、起業家のイーロン・マスク氏もMBA教育やMBA的な考え方に基づく企業経営に対して、厳しい批判(「取締役会を短く切り上げて、経営者はもっと現場や工場に出ろ」等)を展開しました。その主張に対する著名ビジネススクールの教授たちからの反論も寄せられて話題となりました。

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