top of page

デジタル技術が真価を発揮する条件

2

.

デジタル技術を搭載したシステムを導入すれば、狙った効果が上げられるようになるわけではありません。狙った効果を上げるためには、デジタル技術が想定した通りに機能してくれるように”地ならし”をする必要があります。


ここで言うところの地ならしとは、“例外処理パターンを減らす”ということです。

システムには例外処理は欠かせない要素ですが、例外処理のパターン数が極端に多くなったり、より複雑になったり、非効率な業務がそのまま温存される(たとえば、紙を扱う業務がそのまま残る)ことを前提とした処理になっていたりすると、システムの真価は発揮できません。例外処理パターンを減らすということは、“エラーが起きたときの処理をシステムで考慮しないようにする”ということではありません。エラーが起きたときの処理は入念にそのパターンを洗い出して、システムに対して緻密に処理をつくり込むべきです。例外処理パターンを減らすということは、システムの基本となる処理の中に、別系統の処理を含ませないほうがよいということです。


有名な例を出しましょう。

かつて2000年代に日本にはe-Japan構想という計画が存在し、日本政府は数兆円に上る莫大な資金を官公庁・自治体系のシステム整備に投資しました。様々な行政手続をインターネットの上に載せて、効率化しようとしました。


しかし、行政手続がインターネット技術を使った電子システムに対応しても、紙をベースにした申請・行政業務のやり方やその仕組みはそのまま温存されました。既存の業務を抜本的に改革することなく、システムを業務に合わせて改造して導入したのです。

また、行政データを各官公庁・各自治体でバラバラに管理する体制を変えず、関連するデータを標準化して一元的に管理する体制へシフトするということを行政機構全体で行いませんでした。


そのような業務とデータの状態を放置してシステム導入を進めた結果、コロナ禍では支援金の交付、行政組織をまたがった防疫対応・継ぎ目のない医療サービス・国民支援サービスの提供等、迅速な行政対応を行うことができませんでした。システムに大金をつぎ込んでも、システムのベースとなっている行政の仕組みや業務のあり方、統治機構そのものに手をつけないかぎり、システムは効果を発揮できないのです。


ベースとなっている既存の様々な制度や仕組みを大胆に変えようとしても、人気取りにはつながりませんし、むしろ強力な反対派が出てきて自身の立場すら危うくなるというのがお決まりのパターンです。既存の制度や仕組みが誰の目に見ても明らかに障害となっていて、組織全体が大きなショックを受けるような出来事または契機となるような出来事が起きないかぎり、反対派の声を抑えることはできず、改革は前に進めることは難しいのです。


家庭での掃除機ロボットの導入も同様です。

自宅の床にモノを多く置いているご家庭が掃除機ロボットを導入しても、掃除機ロボットの真価は発揮できないでしょう。床に置いてあるモノが障害となり、ロボットが入り込めず、床にはロボットで掃除できないスペースが生まれます。掃除機ロボットを導入する前に、まずは床にモノを置く習慣を改め、床にモノを置かないというルールを定着させる必要があります。それが出来た後に掃除機ロボットを導入することで、掃除機ロボットは真価を発揮するようになります。


今社会で課題となっている宅配の効率化の問題も同様です。

現在の宅配の流れは、チャイムを押す→家の人とやりとりする→玄関先まで荷物を届ける、という流れが基本となります。最近では置き配や宅配ボックスも市民権を得ましたが、基本となる流れは変わっていません。


根本的にこの問題を解決するためには、各家庭用の宅配ボックスを用意して、配送用ロボットと自動的に必要なやりとりを行って、荷物を宅配ボックスの中に迷うことなく入れられる仕組みを社会全体で共通の仕組みにする必要があります。家庭毎(マンション毎)・配送業者毎・宅配ボックス毎に異なる仕様を採用していては社会全体でシステム化を行って配送の自動化の恩恵を受けることはできません。システムが荷物の大半の配送を担えることにより、人間はシステムが処理できない例外的な荷物にフォーカスして配送を行うことができるようになります。


デジタル技術が真価を発揮するための”地ならし”は、口で言うほど容易くはなく、むしろあらゆる仕事の中で最も難しい部類の一つであると断言できます。社内政治や権力闘争、組織の根幹である統治機構と密接に関わっているために、うまくコントロールして目的を実現するためには相応の工夫が必要です。権力が分散している大組織であればあるほど(特定の個人の影響力が少ない株式上場している大企業、もしくは民主国家における政府・自治体・議会であればあるほど)組織全体の合意形成は困難であり、その分”地ならし”の難易度は高くなります。


bottom of page